入学してから数ヶ月経ったある日のこと…
ドンッ
「うわぁ?!」
鳳は突然目の前に現れた人物に気づかずに思い切りぶつかった。
ぶつかった相手は少しよろめいただけで済んだのだが
一方の鳳は驚きのあまりその場にしりもちをついてしまったのだ。
「す、すみませんっ!」
自分がしりもちをついてしまったのにも関わらず鳳は即行立ち上がり
目の前の人物に頭を下げ謝った。
「俺様にぶつかりやがって。汚れたらどうするんだ。アーン?」
…おれ、さま…?
鳳は聞きなれない単語に思わず驚き顔を上げる。
相手はぶつかってしまったのは全て鳳の所為だと言わんばかりに
その場にどうどうと立っている。
身長は…鳳の方がほんの少し小さいぐらい。
「何、人の顔見てぼけっとしてんだよ。」
バカかお前は、といって相手の人は少しだけ微笑む。
その姿はさっきぶつかった時とは違った表情で、その差に鳳は唖然とさせられる。
「…あ…」
思わず声が出る。
そんなに意味は無いはずなのに何故か声が
「アーン?」
その人は、また不機嫌な表情になってしまった。
「すみません。ただ…笑顔が綺麗だな、と思って…。」
鳳も初めてその相手に笑顔を見せる。
するとまた相手もにやりと微笑み
「当たり前だろ。俺様の笑顔はそう安くねえからな。」
じゃあな、と言って彼は階段を上っていく。
その背中を見送ってもう一度すみませんでした。との最後の謝罪。
すると階段を上っていた彼が振り返り
「名前」
「は?」
「お前の名前、特別に覚えておいてやる。」
「…鳳長太郎です。」
何故か知らないけど恥じらい。
「長太郎か…珍しい名前だな。」
と、また笑ってそれからまた階段を上っていく彼が
「跡部だ。覚えておけよ?アーン?」
背中を向けたまま鳳に言った。
あとべさん…。
鳳は何度も心の中で呪文でも唱えるかの様に呟きもう一度彼の背を見送った。
その後、呼鈴がなったのにも気がつかずに先生に怒られるハメになった。
それが鳳長太郎、中学1年生の跡部景吾との出会い。